非薬物療法と環境支援・終末期ケア
1 非薬物療法の意義と種類
非薬物療法とは、認知症の人の状態を改善を目的とした、薬剤を使わない治療法のことです。
従来は回想法やりバリデーションなど本人に対する介入を示す概念でしたが、最近では『BPSDを軽減するための環境調整』、『本人の状態を改善を図るための本人以外(家族など)に対する介入』などを含めて心理社会的介入としてまとめることもあります。
非薬物療法は、信頼に足る実証実験がないけれども個別症例の経験などから一定の効果があるとされているものもあります。
このため、別の人には同じ効果がない事がある(効果が一般化しにくい)
時として悪影響を与える可能性もある事を理解しておく必要があります。
主な非薬物療法には次のようなものがあります。
認知に焦点を当てたもの
RO(リアリティオリエンテーション)・現実見当識訓練
認知リハビリテーション
感情に焦点を当てたもの
回想法 バリデーション 支持的精神療法
刺激に焦点を当てたもの
レクリエーション療法 芸術療法 音楽療法 動物介在療法
行動に焦点を当てたもの
行動療法
2 主な非薬物療法
主な非薬物療法としてRO、回想法、バリデーション、支持的精神療法、音楽療法を近年取り組まれているものとして動物介在療法、タクティールを以下に取り上げます。
RO(リアリティオリエンテーション、現実見当識訓練)
1960年代のアメリカで、らが開発、1970年以降認知症の人に対する構造化された認知トレーニングとして確立
時間や場所がわからなくなる見当識障害に対する訓練。
認知機能に刺激を与え残された脳の活性化を図る
24時間RO(時間や場所などの見当識を推測しやすいような環境を提供するケア)とクラスルームRO(プログラムに従い、名前、時間、季節、場所などの基本情報を提供し、見当識の改善を図る集団療法)とがある。
回想法
1963年アメリカのバトラーが提唱、1970年代いこう認知症高齢者を対象とした回想法が取り入れられ我が国では1990年代から取り組まれている。
高齢者の回想をより積極的、治療的に援助する療法
個人療法(個人回想法)と集団療法(グループ回想法)とがある
効果として
⑴自分の人生を肯定的なものととらえる
⑵自分自身のアイデンティティの形成に役立つ
⑶過去の自分との連続性への確信を生み出す
⑷肯定的感情により自分自身を快適にする
⑸自分の振り返りを他人が傾聴する事で自尊感情を高める
⑹人生を統括し氏のサインに対する不安を和らげる
バリデーション
1963年アメリカのフェイルが提唱
本人の話を否定せずに耳を傾けるなど、認知症高齢者とコミュニケーションをとる方法
認知症の人を4つのステージに分類し、段階ごとの援助の方法(言語、非言語のコミュニケーション)が示され、本人の発言の背後にある想いや感情を推察、共感し、より良好なコミュニケーションの促進を目指す。
不安や葛藤に耳を傾け、それを受容し支持する事で、心身の状態の安定を図り、障害を持ちつつも前向きに生きることを目指して支援する療法。
本人の不安、焦燥の軽減など、心理状態の安定に有効である
音楽療法
第二次世界大戦後のアメリカで、復員兵の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対して用いられたのが最初とされる
音楽の持つ働きを用いて、音楽を意図的・計画的に使用する療法
音楽を受け身に聞くだけの『受動的音楽療法』と積極的に音楽を行う『能動的音楽療法』がある
個人の嗜好をよく把握し、小学校の授業的にならないような工夫が必要
動物介在療法
あらかじめ訓練を受けた動物が、アニマルセラピストとともに、自宅や施設などを訪問する。動物と触れ合うことで心身の安定を図る。
タクティール
1960年だいにスウェーデンで始められたケアメソッド
手を使って10分間程度、相手の背中や手足を柔らかく包み込むように触れる治療法。
親しい人同士の身体的接触ではストレスを軽減するホルモン(オキシトシン)が分泌される。
認知症の人でも身体的接触で心身の安定が図られるとされる。
3 主な留意点
非薬物療法は介入がうまくいけば本人の感情の安定や行動の変化につながりますが、適用を誤れば不安定化のリスクもあることに留意します。
⑴コミュニケーションを伴う治療であり、ケアスタッフは本人との良好な関係が必要
⑵達成感や自己評価の向上にもつながるものである
⑶個別の嗜好を十分に検討し、複数の非薬物療法が準備され、本人の嗜好に合わせて選択できることなどにも留意します。
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